石巻×文化 特別インタビュー 第2弾 石巻×演劇・劇場<いしのまき演劇祭/シアターキネマティカ>

 “文化の街・石巻”の今を発信する「石巻×文化」特別インタビュー。第2弾では、東日本大震災などにより石巻市民会館や市文化センター、岡田劇場といった劇場の失われた中でも、さらに活発な動きを見せている演劇・劇場文化に注目しました。
 今回、お話を伺ったのは2016年から始まり、今年11月の開催で5回目を迎えた「いしのまき演劇祭」を主催する「いしのまきの演劇を考える会」副代表の町屋知子さん、さらに石巻市中心部の空き物件を舞台が併設されたエンタメ施設「シアターキネマティカ」に生まれ変わらせようと奮闘する矢口龍太さんと阿部拓郎さん。石巻に確かに根付き始めている演劇・劇場文化のこれまでとこれからを訊きました。

「演劇を好きに、そして演劇を通して石巻を好きになってほしい」 

ー いしのまきの演劇を考える会副代表/劇団「スイミーは まだ 旅の途中」代表 町屋知子さん

Profile|町屋知子さん(まちや・さとこ)
1991年、青森県青森市生まれ。青森市立南中学校、青森県立東高校卒業。石巻専修大学生物生産工学科を2016年に卒業後、(株)街づくりまんぼうに入社。劇団「スイミーは まだ 旅の途中」代表や、「いしのまきの演劇を考える会」の副代表を務める。

ー今年11月には第5回いしのまき演劇祭が行われましたが、そもそも震災後に演劇祭が始まった経緯を教えていただけますか。
 きっかけは2015年にさかのぼります。当時、石巻市出身で東京でも活躍されている俳優の芝原弘さんがやられている演劇ユニットの「コマイぬ」が石巻で公演を行ったのですが、その際に脚本などを東京の演劇企画「猫の会」の北村耕治先生がご担当されたんです。そうしたら、それを機にその北村先生が石巻の食文化や演劇文化にすごく想いを持ってくださったんですね。そこから「『猫の会』でも石巻で芝居をやりたい」というご相談をいただき、「それなら」と、私たちの間に「石巻を拠点に活動している劇団も同じ時期に公演をするのはどうだろう」というアイデアが生まれたんです。そんな話をしているうちに自然と参加希望者が増えていって、いつの間にか大きな催しを作り上げるということになっていき、結果的に今の演劇祭につながる動きが始まったんです。

―震災で劇場がなくなってしまった中、当初から石巻市内のさまざまな場所を会場にされていましたね。
 芝居って、何百人が入るようなステージだけではなく、倉庫でもお店でもどこでもできるんです。なので、レストランやガレージなどでも公演をして、「どこでだって演劇ができるんだよ」というメッセージを伝えることができているように思います。

―当初は第2、3回と続けていくことを想定していたのでしょうか。
 正直、第1回目時点では、企画が続くかどうかはあまり考えていなかったのですが、仙台や宮城県外の方から「石巻でお芝居をしてみたい」という声が届き始めて。「芝居を通じてこのメッセージを伝えたい」「石巻でこのタイミングで届けたい」と皆さん、色々な想いを持ってくださっていたんですよね。なので、これも“結果的に”自然と続いていくことが決まっていったという感じです。

―それはすごく素敵な流れですね。町屋さんが演劇と出会ったきっかけは?
 私が育った青森は演劇文化が盛んなんです。それで私も興味があって、高校では演劇部に所属して、平田オリザ先生と畑澤聖悟先生のワークショップに参加したこともありました。石巻専修大学では演劇部がなかったので合唱部に入りましたが、その後に表現活動を行うNPO法人の「COMMON BEAT」と出会ったことでもう一度演劇活動を再開して、2014年にはのちの劇団「スイミーは まだ 旅の途中」につながる団体の立ち上げに関わりました。今年も「スイミー」として演劇祭に参加していて、ずっと演劇に携わっています。

―演劇祭が始まったことで、劇団としての変化もありましたか。
 回数を重ねるうちに、演劇祭を訪れた学生がその後に劇団に参加してくれるということも増えてきました。子どもや学生が学校の外での活動に触れやすい環境はとても大切ですよね。実際、私たちの劇団が今回の演劇祭で行った演目では中学3年生の女の子が主役を務めたんです。彼女は普段バレー部に所属しているんですが、お芝居も好きだったそうで、お父さんがFacebookで私たちを見つけてくださってそこからつながりました。演劇祭のおかげで少しずつ個々の劇団の認知度も上がってきているので、これからは社会人でも仕事をしながら演劇を楽しめるような風土を広げていきたいですね。

―最後に、「いしのまき演劇祭」を通じて地元の人にどのような想いを伝えていきたいですか?
 音楽と同じくらい、演劇にも親しんでいただけたら嬉しいですね。というのも石巻の街中で開催される「トリコローレ音楽祭」を見た時に、「演劇もこれくらい受け入れられていったらな」と思ったんです。演劇を知らない人には演劇の魅力を知ってもらいたいですし、 演劇が好きな人にはもっと楽しんでもらいたい。演劇が趣味の一つと考えられるようになったら嬉しいですね。あとは、演劇をきっかけにして、もっと多くの人が外から石巻を訪れるようになってほしい。演劇を通して街を好きになってもらって、地域の人々にも「いい街だな」と思ってもらえるようにしたい。演劇祭がそうしたきっかけの場になれば嬉しいですね。

いしのまき演劇祭
公式HP|https://i-engekisai.jimdofree.com/


「絶やさず育てていく石巻の“文化の灯”」 

ー シアターキネマティカ(石巻劇場芸術協会) 矢口龍太さん・阿部拓郎さん

Profile|
矢口龍太さん(やぐち・りゅうた)
1983年、石巻市生まれ。鹿妻小学校、渡波中学校、石巻高校を経て、早稲田大学第二文学部を卒業。大学卒業後東京で演劇の仕事などに携わり、2017年にUターン。ISHINOMAKI2.0で移住コンシェルジュを務めながら、石巻劇場芸術協会やラジオ石巻「劇場キネマティカ」パーソナリティ、舞台企画「R」などの活動にも力を入れる。

阿部拓郎さん(あべ・たくろう)
1987年、石巻市生まれ。荻浜小学校、荻浜中学校を卒業。仙台の大学を卒業後に東京へ。2011年秋にUターン。ISHINOMAKI2.0で移住コンシェルジュを務めながら、石巻劇場芸術協会やラジオ石巻「劇場キネマティカ」パーソナリティ、「ISHINOMAKI金曜映画館」などの運営にも携わる。

—石巻劇場芸術協会が現在進めている「シアターキネマティカ」のプロジェクトについて教えていただけますか?
矢口:石巻市中央一丁目で、演劇や映画、イベントなどが楽しめる複合エンタメ施設の立ち上げを進めています。もともとは「千人風呂」といって、震災後に仮設風呂とコミュニティースペースとして賑わった建物を改修して整備しています。2022年夏にはイベントができる状態に整う予定ですが、2階はまだ構想段階。アパートメントショップのように雑貨屋や古本屋、レコード屋を入れたいなと考えています。

—プロジェクトはどのようにして始まったのでしょうか?
阿部:僕も矢口さんも、もともとは石巻劇場芸術協会を立ち上げたり、イベントを企画したりと、石巻で映画や演劇の活動を続けていました。また、街づくり団体の「ISHINOMAKI2.0」で移住や定住を支援する移住コンシェルジェも二人で務めています。そこで色々な空き家を紹介する企画があったのですが、不動産屋さんから2020年12月にこの物件を紹介してもらったんです。それで入ってみたらすぐにステージが目に飛び込んできて、「ここを劇場にするしかないね」と。このステージと出会った瞬間に、今までの活動のすべてのピースがつながった気がしました。

—お二人はどのようにして、演劇や映画に魅了されたのでしょうか?
矢口:手塚治虫の漫画「七色いんこ」のワンシーンが原点となっています。主人公が舞台から客席を見た時に「夜に大海原に立っているように見えるんだ」と語るシーンがあるんですね。なぜかそのシーンが、当時高校生だった僕の心に響いたんです。その後、大学で劇団サークルを立ち上げて、卒業後は15年ほど演劇や映像制作に携わりました。震災後は舞台企画「R」を立ち上げて、2017年に石巻にUターン。その後は「ISHINOMAKI2.0」で働きながら、いしのまき演劇祭の実行委員長なども務めました。
阿部:僕は「ISHINOMAKI2.0」で映画の事業を任せられたことがきっかけで、改めて映画というものを意識して、イベントなどを企画するようになりました。僕、映画を誰かと見るという行為が小さい頃からとても好きだったんですよね。映画を見る雰囲気や空間そのものが好きなんです。作品の内容よりも「深夜2時に友達とすごくつまんない映画を見たな」という思い出の方が強く残っているくらい。

—どのような経緯で、お二人は共同でプロジェクトを立ち上げたのでしょうか?
矢口:「ISHINOMAKI2.0」で出会った時は一緒に仕事をする機会はほとんどなかったんですが、入社して1年が経った頃にラジオを任せられるようになり、映画と演劇に関する話やお互いの話をよくするようになっていったんですよね。そうした時間を経て、今回の物件を見た時に「これだ」と。とても自然にプロジェクトのスタート地点が見えたんです。

—プロジェクトをスタートされて、周囲からの反応はいかがでしょうか?
阿部:皆さん好意的で本当にありがたいです。僕たちは街の人に応援していただけるプロジェクトにしたいと考えていたんですが、町内会長が「若い人たちがやってくれて、街が活気付くね」と声をかけてくださって。それはすごく嬉しかった。
矢口:町内会としてクラウドファンディングでも応援してくださって。街の方にたくさんサポートしていただいているので「絶対に街の皆さんを裏切れない」という想いで活動しています。

—最後に、「シアターキネマティカ」の施設を今後どのような存在にしていきたいですか?
矢口:インディーズ系の演劇や映画を上映できるような、そして地元の人たちが気軽に使えるような場所にしていきたいです。自主映画を流してみたりといったことも目論んでいます。あとは、年配の方が名作映画を楽しめるようにもしたい。もちろん「石巻のあの場所で舞台をしたい、上映したい」と言ってもらえるような、施設としての魅力も付けていきたいですね。
阿部:僕のちょっとした夢の一つとしては、有名な役者や映画監督をここから輩出することですね。そして何より、雨の日でも晴れの日でも、いつでも文化の灯があるような場所になったら嬉しいですね。僕自身は雨男ですが、ここなら雨が降っても大丈夫ですので(笑)。
矢口:確かに(笑)。街の灯になれるよう、時間をかけて育てていきたいと思います。

映画と演劇を楽しめる複合エンタメ施設『シアターキネマティカ』
公式HP|https://www.r-ishinomaki.com/kinematica


WRITTEN by 口笛書店
2019年6月、宮城県石巻市に生まれた出版社。石巻に在る出版社だから作れる本、口笛書店だから出せる本というものはなんなのか。時間をかけて模索していきながら出版活動を行っていきます。地元での出版活動のほか、関東を中心に書籍の執筆編集、ウェブコンテンツの企画編集、広告、コピーライトなど、言葉を取り巻くクリエイティブコンテンツの制作も手掛けています。
公式HP|口笛書店

石巻×文化 特別インタビュー第1弾はこちら → 石巻×アート

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